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お知らせ

(2016/02/07) 百物語の元ページの消去にともない、サブカテゴリを削除。
(2008/10/06) RSSの自動読込が変だったので修正。
(2008/09/17) 小説『DEATH NOTE』は連載開始時期になったら、記事復活の予定。早ければ年内、遅ければ年明けくらいに、もしくは夏がまた訪れる頃には。
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本編は√Letterの公式には存在しない、オリジナルルートの第9章、第10章として記載されている。

そのため、事前に公式のルートをクリアした後に、本編を読むことを推奨する。

なお「性的、わいせつ的、暴力的、差別的な表現、その他、読者に過度の不快感を及ぼすおそれのある作品」であるかもしれないため、それらを許容出来ない限りは、本編を読まないことを推奨する。

√Letter 生誕祭ルート のみを閲覧
松江を訪れて九日目。
夕方、文通相手の七人のクラスメイトに会う。
それまでに、まだ読み返してない手紙を見ておこう。
彼女から送られた九枚目の手紙。
天使の便箋の手紙だ。
消印は一月十一日。

年が明けましたね。
マックスくんは元気にしていますか。
ここまで文通が続くとは
思っていませんでした。
マックスくんがいつも返事をくれて
嬉しいです。
マックスくんは周りから
変と言われたことはないですか。
私はよく天然だね、って笑われます。
あのあだ名、私が考えたんだけど、
みんなからは変なセンスって言われてます。
よく似合ってると思うんだけどなぁ。
こんな私に返事をくれるあなたも、
変わった人じゃないのかな、って思っています。
変わり者どうし、気が合うんじゃないかな。
いつかマックスくんに会ってお話してみたいです。

文野亜弥


どんな返事を書いたんだったかな。

手紙、ありがとう。
寒いですが、いつも元気にしてます。
熱血に何事もマックス、が信条だからね。
亜弥さんはそんなに変かな?
普通に手紙を楽しみにしてるので、
そう言われると少し驚いたかな。
まぁあのあだ名は少し驚いたけど、
そういう事が言える間柄なのかな、と思ったよ。
実際にあのあだ名を呼ぶ時に、
どんな風に亜弥さんが話すのか気になるかな。
いつか会ってお友達の話を聞けるといいね。
俺らの距離は遠いけど、
そんな日がいつか来ると俺は信じている。
マックス

あんな返事を書いた割には、まだ会えてないな。
もう少しで会える。
そう信じたいが。

旅館の春花さんが小包を持って入ってきた。

春花「お客さん、起きちょられますか? 荷物が届きましたよ」

俺が荷物を受け取ると、春花さんが布団を片付け始めた。

マックス「今日は智子ちゃんじゃないんだね」

春花「彼女はお休みなんです」

春花さんが布団を片付けてる横で荷物を開ける。
十五年前の雑誌『ティーンズ・クィーン』が入っている。
これに十五年前の俺の文通相手が載っている筈だ。
『街で見かけた可愛い娘』のコーナーだったな。
十月号を見る。
彼女は載っていない。
十二月号を見る。
こちらにも彼女は載っていない。

三冊注文したから、
もう一冊あるはずだ。
十一月号を見る。
『街で見かけた可愛い娘』
のコーナーを見ると……

以前送られてきた写真の少女が載っている。
ついに見つけたぞ。
俺の文通相手は、この彼女だ。

喜んだのもつかの間、失望した。
活字で名前が記載されている部分はマジックペンで塗りつぶされており、
代わりにとある名前が書き記されていたのだ。

神無月 真理亜

念の為に書き写したクラスメイトの名簿を探すが見当たらない。

どういうことだ。
たまたま在庫に不備があったのか。
もしくは何らかの目的があるのか。

だとしたら、
誰が、
どうやって、
なんのために。

春花「どうされたんです? 何が届いたんですか?」

マックス「古い雑誌ですが、目当ての部分が落書きされていたんですよ」

春花「あらまぁ、それはお気の毒に。何ていう本ですかね?」

マックス「十五年前の『ティーンズ・クィーン』十一月号。
山陰の美少女特集です」

春花「それ、松江の可愛い娘が載っとるって、話題になった雑誌ね」

マックス「もしかして、十一月号を持っているんですか?」

春花「私は持っちょらんけど、近所の古本屋にあるかもしれないわね」

古本屋か、松江駅前にあった気がするな。
同じ号の他の雑誌だったら、落書き前の彼女の名前が見れるだろう。

春花さんに幾つかの古本屋の大まかな場所を聞いて、
松江駅方面に向かった。
教えてもらった場所だけでなく色々な所を回ったけど、
残念ながらどの古本屋にも例の雑誌は見当たらなかった。

塗りつぶされていない彼女の名前さえ分かればいいか、
と思って出版社に電話してみたが、あいにく今日は開いていないようだ。
誰も電話に出ない。
出版業はまともな時間に誰も居ないだけなのかもしれないが。

そうこうしていたら腹が減ってきた。
スタンプラリーもあと一個ということで、いつもの神在庵にきた。

三平君がやってくる。
スタンプラリーの台紙をみると、
『すもうあしこし』の残りは『あ』だけだ。

マックス「あまさぎの照り焼き定食をもらおう」

三平「へい、あまさぎの照り焼き定食をいっちょう」

しばらくして、三平君があまさぎの照り焼き定食を持ってきた。
最後の一品をしっかり味わいながら食す。
ぺろりと完食すると、厨房から源吉さんが現れた。

マックス「ごちそうさま。宍道湖七珍を制覇しました。
どれも美味しかったです」

源吉「それは良かった。スタンプラリーの台紙は?」

台紙を出しだすと、源吉が最後のスタンプを押す。

源吉「スタンプラリーが完成したな」

マックス「スタンプが集まるとどうなるんです?」

源吉「いつもは景品を渡すんだけど、
あんたにだけは特別な品を渡しちゃるわ」

源吉さんが厨房の奥に戻ると、一枚の名刺サイズの紙を持ってきた。
洒落たロゴとお店の名前らしき単語が書かれている。

マックス「これはお店の名刺ですか?」

源吉「いんや、うちの店の名前は『神在庵』じゃが、
ここには違う名前が書いちょるじゃろ?」

よくよく見直すと、確かに微妙に名前が違う。

『神無苑』

マックス「お店じゃないってことは、これって何なんです?」

源吉「まぁそうじゃのう、、、もう少ししたら、知ることになるはずや」

マックス「え、教えてくれないんですか」

源吉「そんな残念そうな顔をせんでもええ。
安心せい、あんたが探してる人に、じきに会える。
このオヤジが保証してやる」

マックスモードで聞き出そうかと思ったが、
源吉さんの笑顔を見ていると、その気も失せた。
無理に聞き出さなくても、後でスマホで調べれば何かしら収穫はある筈だ。
それよりも、今は例の雑誌を探してみよう。

神在庵を出て、再び松江駅周辺に戻ってきた。
他に古本屋はないんだろうか。
駅員にたずねてみると『小雲堂』という古本屋を教えてもらえた。

こんな所に古本屋があったとは。
小雲堂に入ると、店の奥からよく見た顔のじいさんが出てきた。
以前、旅館で背中を流してやったじいさんだ。

マックス「じじい、どうしてこんな所にいるんだ」

小雲「ここはわしの店じゃ」

マックス「観光客じゃなかったのか。
それじゃ、店内を見せてもらおうかな」

小雲「だめじゃ」

マックス「どうして?」

小雲「今日、わしはご機嫌斜めなんじゃ。
店内を見たかったら、わしの機嫌をとってごせ」

そういえば、これを欲しがってたんだよな。
荷物からレコードを取り出し、じじいへ渡す。

マックス「じじいにプレゼントするよ」

小雲「大林アサヒ『古い名前で店にいます』じゃのう」

マックス「これで機嫌はなおったか」

小雲「おお、すっかりご機嫌じゃ。
よくコレを持ってこれたな。このレコード、いい名前じゃろぅ」

マックス「まぁ、少しひねっていて、いいタイトルかもな」

小雲「そうじゃろ、そうじゃろ。この名前、よーく、覚えておくといい」

マックス「なんでそんなこのレコードを薦めるんだ」

小雲「まぁまぁ、細かいことはええから。
好きなだけ、店の中を見なさい」

マックス「それなら、見せてもらうぞ」

店内を探すと、奥の方の目立つ場所に飾ってあった。
いやでも目につく。
十五年前の『ティーンズ・クィーン』十一月号だ。
目当てのものはすぐに見つかったのだが、一つ問題がある。
値段を見ると「一億円」と書いてあるのだ。

マックス「一億円だって、ちょっと勘弁してよ」

小雲「まぁお前さんがたどり着くまで、
誰にも売らないようにしてただけじゃ。
ほら、さっきのレコード代じゃ、譲ってやろう」

『ティーンズ・クィーン』十一月号を受け取った。

マックス「ありがとう。でもどうして俺がたどり着くまでって……?」

小雲「あぁくたびれた。中で休ませてもらうとすーわ」

俺の言葉をきかず、そのままじいさんは店の奥に行ってしまう。
少し気がかりではあるが、目当ての雑誌も手に入ったからまぁいいか。
約束の時間まで余裕があるし、一度松江荘に帰ろうかな。

松江荘の自室に戻ってきて、早速カバンから
『ティーンズ・クィーン』十一月号を取り出す。

今朝届いた雑誌にはページに折り目をつけておいたので、
さっと開いてちゃぶ台におく。
そしてさっきじじいから貰った同じ号の雑誌をその横において、
ページをめくっていった。

同じ雑誌の同じ号なので、当然のように同じページがすぐに見つかった。
同じページに同じ写真の少女が載っている。
そして何故か同じように名前の部分がマジックペンで塗りつぶされている。
そこに書いてあった名前は、

神無月 真理亜

どういうことなんだ。
また同じ雑誌だけ塗りつぶされている。
さっきのじじいの口ぶりからすると、わざとこの雑誌を用意してたのか?
だとしたら、なぜ?

いや、待てよ。
じじいの雑誌がイタズラ書きされてるなら、まだ話はわかりやすい。
しかし、遠くの出版社から届いた雑誌まで、
同じようにイタズラ書きされてるのはおかしくないか?
もしかしたら、こういう印刷だったりするのか?

そう思って二冊を見比べてみたが、
微妙に塗り方が違っていて、手書きっぽい。
べったりと完全に塗りつぶされてるわけではなく、
何度も細目のマジックペンで線を書いては重ね、塗りつぶしている。

これはどういうことなんだろうか。
彼女の顔は分かった。
しかしこの名前は彼女の本当の名前なんだろうか。
俺は文通相手を、見つけられたんだろうか。

ここまで考えていて、ふと思い出した。
神在庵でもらったカードに書いてあった『神無苑』という単語を調べよう。
スマホを充電しつつ検索してみたが、それらしき内容はヒットしなかった。
創作小説の中の登場人物の名前に近いものがあったが、多分違う。
今時、ネットで見つからない単語があるなんて……

ますますわからなくなってきた。
一人で考え込んでいても仕方がない。
後はクラスメイト達から話を聞いてみよう。
十五年前に何が起きたのか、明らかになる……筈だ。

そして夕方。
夕日に染まった宍道湖は幻想的で美しい。
彼女のクラスメイト七人が湖畔で集まっていた。

マックス「みんな、集まっているな。
俺が文通していた人物が誰か分かった……と思う」

皆が黙っているので、俺はカバンから
『ティーンズ・クィーン』十一月号を取り出して、
名前の部分が塗りつぶされている
『街で見かけた可愛い娘』のコーナーを見せる。

マックス「このページに写っている制服姿の彼女が俺の文通相手だ。
その名前は、神無月 真理亜……なのか?」

クラスメイト達を見るが、みな無言だ。

メガネこと田中が口を開いた。

田中「あなたがそう思うなら、そうなんじゃないですか」

マックス「見ろ、二冊の雑誌がマジックペンで塗りつぶされていて、
代わりの名前が手書きされてる。
これで本当の名前だと思うほうがどうにかしてるだろ」

ビッチこと理子がため息をつくように言う。

「そんなに彼女の名前が知りたいの?」

マックス「そういう風に言うってことは、
やっぱり彼女の名前は真理亜じゃないんだな」

するとサルこと渡辺が言い切った。

渡辺「いや、彼女の名前は真理亜だ」

マックス「しかしお前らのクラスメイトの名簿には
そんな名前はどこにもなかったぞ」

チビこと野津がやれやれといった感じで口を開いた。

野津「メガネのフォローも兼ねて言っておくとな、
マックス、お前が見た名簿は俺ら以外はニセモノなんだ。
個人情報保護って時代に、そんな簡単に名簿を見せるわけないだろ」

マックス「じゃあ、最初から俺に見せるつもりで、
あの名簿は用意されてたってことなのか?
だったらなんで、みんな彼女の事を隠そうとしたんだ?」

何か憑物でも落ちたような、ほっとした顔でデブこと大森が言う。

大森「それは彼女から頼まれていたからだよ。
もう少ししたら君が現れるから、できるだけ隠しておいてくれ、と。
そしてよほどのことがない限り、警察は呼ばないでくれ、と」

マックス「なんで俺が来たら警察を呼ぶんだ?」

すると険しい顔でガリこと美咲が突っかかってきた。

美咲「何言ってるの、あなた!
デブ君に何したか覚えてるの?
彼が苦手なジャムをお店にこぼして脅迫まがいのことばかりして、
『そろそろ外の空気を吸わせてやろう』
って何様のつもり?!
その場にいたら、かじってやってたわ!!」

すると皆がそうだ、そうだという雰囲気になる。
なんで俺がここまで怒られなければいけないんだ。
ちょっと勘弁してよ。

親友こと由香里がその場の雰囲気をなだめるように、
肩でもすくめそうな雰囲気で話しだす。

由香里「まぁまぁみんな、落ち着いて。
マックス君は、自覚がないのよ。
悪意がなく、目的のためにはああいった事ができてしまう。
……そう、彼女みたいにね」

すると皆が無言で頷き、その場は静まった。

由香里「私達のあだ名なんだけど、あれってみんな彼女がつけたのよ。
困ったことに、悪気がなかったみたい。
無邪気な顔をして、あんなあだ名いうものだから、
最初はみんな微妙な雰囲気になってたけれど……」

理子「不思議なことに、彼女から言われると、
なんだかんだで皆納得して、あのあだ名で呼ばれ続けたの。
そしてそれが定着して、自然とあのあだ名で呼び合うようになっていたわ」

渡辺「彼女の言うことは、不思議と周りを納得させたな。
言葉そのものに、何か力があるというか」

野津「まぁサルの場合、ガリの言葉の方が色々と納得できたんだろ?」

渡辺「う、うるせえな、チビ。
俺はお前みたいにラブソング送ったりしてねえし!」

野津「な、なにおう!」

渡辺「若気の至りだな。スパーク!ってなんだありゃ」

野津「サルみたいな脳筋には、俺の芸術が理解できないんだよ!」

美咲「まぁまぁ、脱線はこのくらいにして話を進めましょう。
マックスも困ってるじゃない」

マックス「そうだな、色々と他にも聞きたいことが出てきたしな。
話からすると、みんな、俺の前で芝居をしてたんだな?」

由香里「私の場合、あなたと雨の日に出会ったり、
オフの日に近所で出会ったり、荷物整理の時も計画済みだったわ。
そうでなければ、いくら松江がそこまで広くないとはいえ、
あんな都合よく会えるわけないでしょ?」

マックス「そうか、それで納得がいった。
初対面に近い俺に対して自宅で誘いをかけてきたのは、芝居だったんだな」

クラスメイトがざわつきだした。
おや、これは初耳だったのか?

由香里「まぁ、芝居だったわ……半分くらいは」

田中・渡辺・大森・野津「半分ッ?!」

マックス「やっぱり芝居だった、ってわけだ」

由香里「ここまで言わせておいて、この反応って……
やっぱりマックスはマックスなのね。
あそこまで私がしておいてなびかないなんて、
正直ショックだったんだけど、確信したわ。
あなたってゲイなの?」

マックス「どうしてそんな結論になるんだ」

美咲「ある意味、浮気の心配はしなくてよさそうね……」

理子「これなら、彼女とお似合いかもね……」

女性陣二人の反応が、心なしか冷めてるのは
気のせいなんだろうか。
どうして皆納得しないんだろう。
何か間違えたかな。
話の流れを変えてみよう。

マックス「そろそろ十五年前に何があったのか、教えてもらいたいな」

由香里「そうね、断片的に分かってることなら、教えてあげるわ」

マックス「彼女が文野亜弥ではない、というのはわかってきた。
でもどうして文野亜弥だと名乗って文通したんだ?」

理子「文野洋子さんは記憶障害があったのよ。それで……」

由香里「まずは、どうして彼女が文野亜弥を演じたかを話さないと、
先に進まないわ。
発端は十五年前の春よ。
私達と彼女は、日帰り旅行をしたの」

理子「色々なところへ行った帰り道、次の電車までの時間が空いたので、
一駅だから歩こうって事になったの」

由香里「歩いてる途中で、雨が降ってきたのよ。
それで軒下で雨宿りをしてたら、
隣の洋館から文野洋子さんが手招きしてくれたの」

美咲「彼女がきょとんとしてたのよね。
『この洋館、昔見たような気がする』って言ってたわ。
あなたは途中から転校してきたから気のせいでしょ、って
答えたんだけど……」

理子「あの時は雷まで落ちてきて慌てたから、
それがきっかけでご好意に甘えて、みんな揃って洋館に入ったの」

由香里「お子さんの写真があったので聞いてみたら、
洋子さんは『十年前に病気でね』と寂しそうに微笑んでたわ」

美咲「その後文野教授が出てこられて、亜弥さんの昔話をされたわ。
大庭高校に通っていた、自慢の娘だったと」

大森「そのあと出てきた紅茶とクッキー、おいしかったなぁ」

美咲「あんまりおかわりするから恥ずかしかったよね」

渡辺「チビの家で食べたのよりも美味かったよな」

野津「まぁ、確かにあのクッキーは美味しかったな」

田中「たしかクッキーを誰かがこぼして、片付けてる最中に、
洋子さんが彼女のことを『亜弥ちゃん』って呼び出したんですよね」

美咲「間違えてますって言った方がいいんじゃないか、
って彼女に促したけれど、
『それは良くないわ。おばあちゃんも似た症状だったんだけど
言うことを否定しないように、ってお医者さんが言ってたわ』
って言って、そのまま亜矢さんを演じることになったの」

田中「そういう人は意見を否定されると
パニックになることがあるんですよね」

由香里「彼女は文野教授から、時々、亜弥を演じてほしいと言われたそうよ」
野津「人助けだと思って協力したんだ。もちろん俺達も」

マックス「彼女が亜弥さんを演じた経緯は分かった。
でも、どうして亜弥名義で文通を始めたんだ?」

由香里「洋子さんが文通相手の募集記事を見つけて、
強引にたくさん手紙を書かせたそうよ。
最初は仕方なく返事を書いたようだけど、
二通目からは楽しみにしていたみたいね」

理子「そして、九月に洋子さんの誕生会があったり、
定期的に洋館に集まって、洋子さんや文野教授と交流を続けていたの。
あのクリスマスパーティの日も、私達だけ帰るまでは、
特にトラブルはなかったんだけど……」

渡辺「その後何があったのか、俺達は詳細を知らない。
ただ言えるのは、その日の夜に洋館は火事になり、
洋子さんは亡くなられた、って事実だけだ」

美咲「さすがに彼女は沈んでたから、
もし言いたくなったら教えて、
とは伝えてたけど『相談にいつでも乗るからね』って
意味だとは分かってもらえなかったのかもね」

由香里「結局は未だに真相は分からないまま、
卒業式になって、私達は教室に呼びだされ、
彼女が『みんなに別れの挨拶をしたい』って言い出した。
そして『文野亜弥はこの世からいなくなります』
と言って、ナイフで手首を切ったのよ」

大森「僕は気分が悪くなって座り込んだんだけど、
手前まで血が流れてきたんだよね。
だから気づいたんだ、血じゃなくてコチニールだって」

渡辺「彼女は『これで文野亜弥は死にました』と言った。
そういう意味か、と思ってほっとしたら、まだ続きがあったんだ」

美咲「そして彼女は言ったのよ、
『次に私もこの世からいなくなります』って」

野津「コチニールで真っ赤になった手でナイフを握り、
もう片方の手首にあてた時、またコチニールだろう、
ってみんな安心してたんだと思う」

理子「最初はわからなかったけど、
彼女が床に倒れて顔が真っ白になった時、
本当の血が流れてる、って気づいたの」

美咲「あの後は本当に大変だったわ。
保健室の先生を呼んで緊急手当をしてもらったり、
救急車を呼んでもらったり」

由香里「救急車に運ばれていく直前、
すがりつく私の前で彼女が少し目を開けて、呟いたの。
『これで私は、神無月真理亜になるわ』と」

マックス「やっぱり元から真理亜って名前じゃなかったんだな。
その真理亜って、一体なんなんだ?」

由香里「……そうね、それについては私達からじゃなくて、
明日、直接聞いてもらった方がいいと思う」

渡辺「だから、あとは事実だけ簡潔に話そう。
それから彼女とは連絡がほぼ取れなくなったんだが、
つい先日、不意に連絡が来たんだ。
遠くから彼女を探しに来る男が来るだろう、と。
出来れば彼女のことは話さないでいて欲しいが、
もし話したくなったら、話してもいい、と」

田中「それを聞いて、わたしたちはこう解釈しました。
おそらく、これはマックス、あなたへの試練なのだろうと」

大森「君の人となりを判断するため僕らが君への障壁となって、
どう対応するか見てみたいんだろう、と考えたわけだね」

野津「警察も呼ばないでくれ、って言われた時は驚いたけど、
今じゃ納得するしかないよなぁ」

渡辺「殺人事件が起きたと確定したわけでもなく、
捜査権限があるわけでもない一般人が、
十五年ぶりに手紙一つ受け取っただけで島根までやってきて、
脅迫まがいに無理やり話を聞き出そうとするとはなぁ。
呆れたもんだぜ」

田中「私なんか、カツラを取られたんですよっ!
ひどい、ひどすぎるっ!
人権侵害だっ!!」

大森「僕だってジャムで貧血にさせられるわ、
臨時でお店を閉めることになるわ、散々だったよ……」

理子「私は娘に昔の恥ずかしい写真を見せるって脅されるし……」

大森「えっ、そんな写真がマックスの手に?!」

理子「何想像してるの、エロデブ。婚約者の娘に言いつけるよ。
そうじゃなくって、ビールのポスターがきわどいグラビアだった、って話」

渡辺「なんだ、あのポスターのことか。
健康的でセクシーだったから、別にいいじゃないか」

理子「若いころはともかく、もう子供も大きくなってきた年だと
若気の至りみたいで恥ずかしいの!
でもまぁ、娘には話して、納得してもらえたし、
ママかっこいいねって言ってもらえて結果的には良かったけどさ……」

マックス「皆が俺に対して言いたいことがあるのは分かったが、
チビにだけは何も言われたくないな」

野津「まぁ俺に関しては、ああいう役回りだったから
マックスに色々言われたのは自業自得感あったかな」

渡辺「チビにはイヤな役をさせちまったな。
危機感がある時の様子も見ておこうってなると、
ああするのが自然かと思ったんだよ」

理子「別にチビは彼女を本当に襲ったわけじゃなくて、
若気の至りで暴走しそうになって、彼女に諭されてあっさり謝った、
ってだけなのにね。
あの後、スパークってあだ名が定着しなくてよかったわね」

由香里「その経緯を皆にあっけらかんと言うあたり、
彼女はやっぱり大物だと思ったわ」

野津「みんなにネタにされて、逆に俺は救われた感があったな。
変に秘密にされて、腫れ物に触るように扱われるよりは
良かったのかもしれない。
親父のこととかでムシャクシャしてたのに、
なぜか気にならなくなって、前向きに頑張ろうって思えてきたのが、
いまだに不思議なんだよな……」

美咲「そこら辺まで計算してカミングアウトしたのなら凄いわね。
でもたぶん彼女は何も考えてなかったんじゃないかしら。
まぁそこが彼女らしいんだけど」

マックス「今までの話からすると、
俺がマックスモードで無理やり聞き出した時も、
実際はみんな芝居だったわけだ」

渡辺「いや、そうでもない。
お前に会うきっかけまでは計画をたてていたが、
それから先は、特に芝居をしたってわけでもないんだよな」

理子「そこも彼女に頼まれてたのよ。
本気で相手をして、心が動かされるか、試してほしいって」

美咲「まぁ色々な意味で、心が動かされたのは確かよね。
そういう辺り、彼女に通じるものがあるのかな」

渡辺「俺は男泣きしてしまったが、
あの場は自然とああなってしまったんだよな。
マックス、お前には人の心を動かす力があると思う」

野津「まぁマックスの場合、悪い意味で、かもしれないが……」

理子「ストーカー役してた人に言われてもね」

野津「いや、俺の役柄よりもマックスの方が明らかに異常だろ」

マックス「ここまで言われるのは心外だな」

田中「あなたにだけは言われたくないですね!」

渡辺「それはこっちのセリフだ!」

美咲「本当に自覚がないんだ」

理子「悪意がないのがタチが悪い……」

野津「マジかよ……」

大森「ここまでくると、逆に清々しいね」

由香里「まぁまぁみんな、正気にては大業成らず、って言うじゃない。
明日の件、マックスならいいんじゃないかと思うんだけど、どう?
話を進めてもいいかしら?」

由香里が他のクラスメイトを促すと、みんな無言で頷いた。

マックス「明日の件、ってなんだ?
それにあと一つ、質問したいことがあったんだ」

神在庵の源吉さんから貰ったカードを見せる。

「神無苑、ってなんなんだ?」

由香里「そのカードをもう持ってたのね。
神無苑って名前、どう思う?」

マックス「神在庵という名前に似てるが、意味が逆だよな」

由香里「八百万の神が集まる出雲大社。
その近くの土地には、あまり似つかわしくない名前かもね」

マックス「答えになってないな」

由香里「島根生まれの人は、そこには属せない。
外から来た人じゃないとダメなの。
だから転校してきた彼女や、マックス、あなた達には資格があるわ」

マックス「資格って何のことだ?」

由香里「明日、全ては本人から教えてもらって」

マックス「それに、彼女の本当の名前もまだ聞いてない」

由香里「昔の名前だけは教えないでおいて、って念入りに頼まれてたの。
だからそれも明日、本人から、ね」

マックス「また明日、か。明日になったら何があるんだ?」

由香里「明日になったら、迎えをよこすから」

マックス「俺がどこに居るのか分かるのか?」

由香里「松江荘でしょ」

マックス「なんでもお見通しなんだな」

由香里「そうでもないわ。あなたの心の中は、未だに分からないし」

そしてクラスメイト達は立ち去り始めた。
すると思い出したように、由香里が振り向いて言った。

由香里「マックス、あなたは彼女に会いたくてここまで来たんでしょう?」

マックス「そうだな。なかなか会えないが」

由香里はくすりと笑った。

由香里「実はあなた、すでに彼女と会ってるのよ」

マックス「え、どこで?!」

由香里「それも、明日、ね」

今まで見せたことがなかった、高校生のような意地悪っぽい笑顔を見せて、
由香里は去っていった。
そのまま見ていたが、こちらを振りかえらず、みんな行ってしまった。
クラスメイト達が談笑しながら歩いて行くのを見て、
俺はあそこの中には入れないんだな、と悟った。

マックス「そうか。
俺は、お前たちにもてあそばれただけなのか」

結局、彼女には会えないままか。
肝心なところは、まだ良くわからない。
すべては、明日、か。
明日になれば、きっと、すべてが。

第10章 蝶々の便箋へ続く)
松江を訪れて十日目。
文通相手の所在は不明のままだ。
しかし今日は俺のもとに迎えが来るということらしい。
それまで部屋で待ち続けるしかなさそうだ。

そういえば、読み返してない手紙がまだ一通あったな。
蝶々の便箋の手紙だ。
彼女から送られた十通目の手紙。
消印は二月二十九日か。
最後の手紙を読む。

手紙、ありがとう。
私はずっとふさぎ込んでいました。
色々なことを知ってしまった今、
このまま消えてしまいたいと思っていました。
自分が何のために生まれてきたのか、
どのように生きていけばいいのか、
分からない。
でも、決めました。
私は生まれ変わろうと思います。
彼女が望まれていたように。
私があとを引き継ぐのです。
私がこの名前で手紙を出すのは、
これが最後かもしれません。
今まであなたと手紙を出しあって
本当に楽しかったです。
いつか会ってお話してみたいけれど、
今はまだその時じゃないみたい。
いつか、私に会いにきてほしい。
その日を楽しみに、生きていきます。

文野亜弥


手紙を読み終わったところで、
自分はどんな返事を出したのかを思い出そうとしていると、
智子ちゃんが部屋に入ってきた。

智子「お客さん、来客ですよ」

マックス「ついに来たか」

部屋の外に出るが、周りには誰も居なかった。

マックス「誰もいないけど。来客ってどこかな」

智子「へへー、それは私です」

マックス「つまり、智子ちゃんが俺を迎えに来たってこと?」

智子「そうですよー、マックスさん」

マックス「まさか君だったとはな」

智子「昨日のお休みの時に、ちゃんとお会いして話をしてきたので、
ご安心ください」

マックス「君が彼女の元に連れて行ってくれるってわけだ」

智子「はい、私にお任せくださぁい」

智子ちゃんと二人で交通機関を乗り継いで、
郊外の大きなショッピングモールにやってきた。
大勢の人で賑わっている。

マックス「ここに彼女がいるんだな」

智子「はい、そうです。あとはマックスさんが探しだしてください」

マックス「え、こんなに人がいる中から一人で探すの?」

智子「はい、そうです。がんばって〜」

ひらひらと手を振りながら、智子ちゃんは行ってしまった。
てっきり彼女の元に直接連れて行ってくれると思っていたのに、
あてが外れてしまった。

しかたがないので取り敢えずモール内を見渡しながら
ぶらぶらと歩いてみた。
なんだろう、初めて来たはずなのに何かどこかで見たような気がする。
デジャブというやつだろうか。

少し歩くと広場っぽいところに着いた。
子どもたちが人だかりになっているのでそちらを見ると、
しまねっこが子どもたちの相手をしている。
なんとなく手をふると、しまねっこも手をふり返してくれた。

なかなか彼女は見つからないな。
雑誌の写真を見なおしつつ、周りをきょろきょろと見渡すが、
それらしき姿は見当たらない。
今、彼女はどこに居るんだろうか。
このままやみくもに歩きまわって見つかるものだろうか。

子どもたちがはしゃいでるのを見ながら考えた。
子ども、か。
ひとつ思いついた。
迷子コーナーに行って、彼女を呼び出してみよう。

係員「お探しになってる方のお名前はなんですか?」

マックス「彼女の名前は……」

そう言おうとして、肝心なことを知らないのに気づいた。
本当の彼女の名前をまだ知らない。
知ってるのは雑誌にマジックペンで書かれていた名前だけだ。
ダメもとで、神無月真理亜、と伝えて店内放送で呼び出してもらう。

十分ほど待ったが、いまだに誰もやってこない。
さて、どうしたものか。
彼女はこの放送を聞いていないのか。
もしくは名前が違うのか。
名前、か。
そう思った途端、
不意に小雲のじじいの言葉を思い出した。

小雲「大林アサヒ『古い名前で店にいます』じゃのう」
小雲「そうじゃろ、そうじゃろ。この名前、よーく覚えておくといい」

もしかしてじじいはこの事を言ってたんだろうか。
店と言うにはこのモールは大きいかもしれないが、店ではある。
レコードの名前にしたがって、彼女の古い名前で呼び出すべきだろうか。
しかし俺はまだ、彼女の真理亜以前の名前を知らない。
こんなことなら、智子ちゃんに聞いておくべきだった。

このままじっとしていたら、見つかるものも見つからなくなりそうだ。
諦めきれずにもう一度雑誌の写真を見直し、辺りを見回しながら歩き続ける。なにか見落としがあるかもしれない。

かなり店内を歩いたつもりだが、まだ見つからない。
気が付くと広場に戻ってきていた。
今はしまねっこはおらず、代わりにピエロが芸をしている。
二枚の絵を重ねあわせ、違う一枚の絵が出来上がると
子どもたちの歓声があがった。
重ね絵というやつか、懐かしいな。

ん、待てよ。
二枚を重ねる、か。
もしかしたらこれでどうにかなるかもしれない。

二冊の『ティーンズ・クィーン』十一月号を取り出し、
彼女の写真のページを重ねて日の光にかざす。
マジックペンでの塗りつぶしは完全ではなく、
ところどころ小さな隙間がある状態だ。
だからこうして重ねあわせると、
消された部分の名前が少し類推できるような状態になった。
書き写した名簿と照らし合わせると、とある名前が候補にあがった。

チビが言っていた。
名簿の自分たち以外の名前は偽物だ、と。
だから彼女の古い名前が名簿に書かれていない可能性もある。
しかし試さずにはいられない。
迷子コーナーへ再び行き、呼び出しを頼むことにした。

マックス「たびたびすみません。もう一度呼び出しをお願いします」

係員「お探しになってる方のお名前はなんですか?」

マックス「彼女の名前は……
吉岡栞、です」

しばらく待っていると向こうから黄色い見覚えのある姿がやってきた。
しまねっこだ。
もう休憩時間が終わって、また広場で子どもたちの相手をするんだろうか。
そう思ってると、目の前でしまねっこが立ち止まった。

しまねっこ「ひさしぶり。
というよりは、はじめましてって言うべきかな?」

マックス「しまねっこが喋った!」

しまねっこ「えー、驚くのそこ?」

しまねっこが頭のかぶりものを取ると、
そこには探し求めていた写真の彼女が居た。
俺のかつての文通相手の彼女が。

そうか、由香里が昨夜言ってたのはこのことだったのか。
松江駅に到着した時点ですでに俺は彼女に会っていたわけだ。
しまねっこの衣装を着た彼女に。

マックス「君が俺の文通相手か」

しまねっこ「そう。文野亜弥として文通してたのは、このわたしです。
古い名前は……」

マックス「吉岡栞」

しまねっこ「そして今の名前は……」

マックス「神無月真理亜、なのか?」

しまねっこ「ええ、そうなるわ」

マックス「いま、君のことはなんて呼べばいい?」

しまねっこ「そうね、せっかくだから吉岡栞、でいいわ。
古い話をするんだから、それがいいんじゃない?」

マックス「わかった、栞ちゃん」

栞「ふふっ、ちゃんづけだとなんだかくすぐったい」

マックス「じゃあ吉岡さん、の方がいいかな?」

栞「それだと他人行儀すぎない?」

マックス「じゃあ、栞、で」

栞「うん、それがいい」

マックス「ところでさっきから気になってる事があるんだけれど」

栞「昔の話のこと?
教えてあげなかったら、みんな相手みたいに、
マックスモードで無理矢理に私からも聞き出すの?」

いたずらっぽい笑顔は、昨夜別れ際の由香里に似ていた。
なんだろう、俺はみんなにからかわれているんだろうか。

マックス「そうだな、その時は栞相手でも容赦しない。
何事もマックス、が信条だしね」

栞「うわぁ……やっぱりマックス君は凄いね。
私が見込んだだけはあるわ」

にっこりと笑う栞の顔を見ていると、
からかわれているというわけでもない気がしてきた。
とりあえず話を聞いてみるしかなさそうだ。
だが、その前に……

マックス「昔の話も当然気になるが、
まずはしまねっこの衣装をどうにかしてきたら?」

子どもたちが集まりつつあるが、
しまねっこの頭部が取れた姿は情操教育上良くない気がする。
それ以前にしまねっこの姿のまま真面目な話をするのはどうなんだろう。

栞「えー、どうしよう。
あ、そっか、智子ちゃんを呼んでみるね。
ちょっと待ってて」

栞ことしまねっこは頭部をかぶって、すたすたと歩いて行ってしまった。

もしかすると、栞はしまねっこの姿のまま
話を続けるつもりだったんだろうか。
やはり栞は少し変わってるのかもしれない。

しばらくして、普通の服装になった栞としまねっこがやってきた。
多分このしまねっこの中の人は智子ちゃんなんだろう。
しまねっこは後は任せろと言わんばかりに手をひらひらさせて
広場の方に歩いて行ってしまった。

栞「おまたせ。じゃあ二人っきりでどこかでお話しようか」

マックス「そうだね。場所は君に任せるよ」

栞「じゃあ、喫茶店で何か飲みながら、お話しましょ」

モール内の喫茶店に入り、奥の方の席に座った。

マックス「じゃあ十五年前、何があったのかを教えてくれるかな」

栞「それよりも前、二十五年前のことから話しましょうか」

マックス「そこまで話が遡るんだ」

栞「そうね、そこが始まりだし」

頼んでいたコーヒーが届いたので、二人でそれを飲む。
ほどなく、栞が話し始めた。

栞「文野亜弥さんが病死した、っていうのは文野洋子さんの嘘なの。
もっと正確にいうと、文野教授が洋子さんにそう言い聞かせていたの」

マックス「病死でないということは別の死因だった、ということか」

栞「そう。幼いころに交通事故にあいそうになった私を、
亜矢さんは庇って、代わりに亡くなられてしまったの」

マックス「そうだったのか」

栞「そのころ、私は松江には居なかった。
そして亜弥さん達も。
昔は別の土地に住んでいたの。
つまり、私たちはこの土地の生まれじゃないわ」

マックス「生まれの場所が何か関係してるの?」

栞「あとで関係するから、今は頭の隅に置いといてくれると助かるわ」

マックス「わかった。続けてくれ」

栞「亜弥さんが亡くなって、洋子さんは大変悲しみ、
記憶障害を患うようになったらしいわ。

小さかった私も記憶障害のようになって、混乱していたみたい。
あの頃のことは未だに思い出せない。
断片的に思い出す画像はあるんだけれど、
それらが結びついてくれない、って言ったら分かってくれるかな。

そんな幼かった私の状態を考慮して、
亜弥さんが交通事故で身代わりになったとは説明せずに、
お互いの家族は、別々の土地に引っ越していったの。

だからそのまま、私たちは接点を持たずに暮らしていたんだけど、
そうとは知らないまま文野さん夫婦が引っ越した松江に、
偶然私も引っ越してきてしまったの。

そしてあの日、縁雫に導かれるように、文野洋子さんと再会したの。
あの洋館は初めて入ったんだけど、
以前事故があった時に見た洋館と同じ作りを再現していたみたい。
だから、初めてじゃない気がして、すごく不思議だった。

そんな私の様子を見ても、洋子さんは私だと気づいてなかったけれど、
文野教授はすぐ私のことに気がついたみたい。

もう事実を受け止められるくらいの年齢になったから、と
本当の経緯を教えてくれた。
そしてその上でお願いされたの。
文野亜弥さんを演じてほしい、と。

色々とショックだったけど、
洋子さんが本当に嬉しそうな顔をするから、引き受けることにしたわ。
これが私の罪滅ぼしだと思ったし」

マックス「そうか、十一通目の手紙はそういう意味だったのか」

『私は人を殺してしまいました。
罪を償わなければなりません。
これでお別れです。
さようなら』

栞「あの手紙、本当は十通目の手紙として出すつもりだったの。
一度は書いたけど、結局投函はしなかった。
その代わり蝶々の便箋で、別の手紙を出したわ」

マックス「あの、生まれ変わるという内容の手紙だね」

栞「そう、その手紙よ。
せっかく最後の手紙なんだから。
そう思って書き直してると、あんな文面になっていたの」

マックス「でも出さなかった幻の十通目の手紙は、
十一通目の手紙として出されたわけだ」

栞「消印が押されないような方法でね」

マックス「あれってどうやったのか、気になるな」

栞「色々と私には協力してくれる人がいるの」

マックス「まさか不法侵入して……」

栞「今回はそんなことはしてないわ。
これは文野教授のアイデアだったんだけど、
マックス君がまだ独身だったらこの手紙を置いてほしい、
ってお母様にお願いしてもらったの」

マックス「まさかおふくろがあの手紙を置いたのか……」

栞「来てくれるのか本当にドキドキしたんだけど、
あの手紙だけでちゃんと来てくれたね、マックス君」

マックス「そりゃ、気になるだろ。
気にならないわけがない。
居ても立ってもいられなくなったんだ。
何があったのか、知りたい、と」

栞「そっか。そうなんだ」

満足そうに栞が微笑んでいる。
だがまだ話は終わってない。
俺は満足していない。

マックス「栞と亜弥さんの関係は分かった。
けれど、それからどうして火事が起こったり、
真理亜という名前になったんだ?」

栞「あの火事は、真理亜と関係があるの」

マックス「わかった。続けてくれ」

栞「あの火事があった日は、私はみんなと一緒に文野さん夫婦に呼ばれ
洋館のクリスマスパーティに行ったの。
クリスマスパーティ自体は特に問題なく終わって、
私だけは亜弥さんとして残っていたわ。

十八歳のクリスマス、それが洋子さんにとっては特別な意味がある。
そんな事とは知らずに、いつも通り洋子さんの相手をしていたわ。

私は洋子さんに『真理亜、いよいよ時が来たわ』と言われた。
そして私は『いいえ、私は亜弥よ』と答えてしまった。
それが間違いだったの」

マックス「それだけのことで?」

栞「そう、それだけで、心に楔が入ってしまったの。
言うことを否定しないように、ってお医者さんが言われていたのに、
私はつい洋子さんの言葉を否定してしまった。

その一言で、洋子さんの心のバランスが壊れてしまった。
洋子さんは半狂乱になって、洋館に火をつけてしまったの。
たぶん、思い出ごとすべてを捨て去りたかったのかもしれない。

つまり、私は洋子さんの娘さんを二度も殺してしまったの。

火事で直接洋子さんが亡くなられたわけではなくて、
あの火事では一命を取り留めたんだけど、
結局そこから体調が悪化したまま、復調せずに亡くなられてしまった。

洋子さんの葬儀のあと、文野教授が教えてくれたわ。
亜弥さんは十八歳のクリスマスのあと、神無月真理亜となる予定だったと」

マックス「その真理亜って、一体なんなんだ?」

栞「文野さん夫婦は、とある団体に所属していたの。
島根県出身では入団する資格がない、特殊な団体に。
その団体では、神無月真理亜は特殊な存在なの」

マックス「その団体、って一体なんなんだ」

栞「源吉さんから、その名前は教えてもらったんじゃない?」

マックス「もしかして、あのカードの『神無苑』という名前の?」

栞「そう、それが文野さん夫婦が所属する団体の名前よ」

マックス「神無苑って団体は一体何なんだ?
どこにあるんだ?
ネットで検索してもまったく出てこなかったんだけど」

栞「どこにあるのか、って答えはすぐ教えられるわ。ほら見て」

栞が喫茶店の窓の外を指差す。
そちらにはショッピングモールのポスターがあった。
何の変哲もないポスターだ。

マックス「あのポスターが何か関係あるの?」

栞「よく見て。何か気づかない?」

もう一度ポスターを見る。
そして気づいた。
源吉さんに貰った神無苑のカードを取り出す。

カードに印字されてる神無苑のロゴ。
ショッピングモールのポスターのロゴ。

これらは全く同じだ。
どうりでモールに来た時に、妙な既視感があったわけか。

マックス「ロゴがどちらも同じだ。だが名前は違うね」

栞「いえ、同じなのよ」

マックス「ショッピングモールの名前は、ヒューマンガーデンモール。
カードには書いてある名前は、神無苑。
同じじゃないだろ?」

栞「それらの名前は同じ意味を指すの。
神無苑というのは、その教義を指し示しているわ。
神の存在を否定しているわけではなく、
神に頼らず、人だけの力で乗り切る。
そんな想いが込められているの」

マックス「教義ってことは、神無苑は宗教団体なのか?」

栞「そうね、世間一般ではそう呼ぶ代物だと思うわ」

マックス「そしてこのモールのヒューマンガーデン、というのは
神無き庭、つまり人のみが居る庭を意味してる、ってことか」

栞「そう、その通りよ。ここまで言えば分かってもらえたかしら?」

マックス「なにが?」

栞「神無苑がどこにあるのか。
その答えはすぐ教えられるって言ったでしょ。
実際、私は指先一つで答えたわ」

マックス「まさか……」

辺りを見渡す。
一見、普通のショッピングモールだ。
普通の家族連れや学生たちが訪れる、郊外によくあるような健全な空間。
だがこのモールと宗教団体の名前は同じ意味だ。
それは、つまり。

マックス「神無苑はここだ。
つまり、このショッピングモール自体が神無苑なんだ」

栞「そう、その通りよ」

嬉しそうに微笑んでいる栞の顔が、さっきまでとは違って見える。
同じように笑っているはずなのに。

マックス「君が真理亜になった経緯はわかった。
ただ、そこまでして何が目的なんだ?
それにどうして今になって俺を呼び寄せるような手紙を出したんだ?」

栞「マックス君は、この国をどう思ってる?」

マックス「質問に対して質問で返すなんて、答えになってないな」

栞「ちゃんと答えるから、まずは私の質問に答えて。
順序立てて話すには、この質問が必要なの」

マックス「わかった。とはいえ、特に国に対して何か思うことはないかな」

栞「マックスくんはこの国に対して、疑問を感じない?
ただ暮らしていくだけなら、命の危険もないし、水や食料も手に入るし、
特に不満もない?」

マックス「不満がないわけではないけど、世の中そんなものじゃない?」

栞「マックス君はそうなんだね。
私はちょっと違うかな。
いろいろと変えていきたいことがあるの。
ただ、そのために何かをするには、一人では限界があるわ。
力が必要なの。色々な人の」

マックス「なんだか、救世主にでもなりそうな口ぶりだね」

栞「そもそも、救世主の定義とは何かしら」

すぐに答えられそうになかったので、スマホで検索してみた。

マックス「ウィキペディアだと、こう書いてるね。
人々や世界を救済するとされる存在のこと」

栞「そういう言い方もあるわね。
だったら救世主になる必要十分条件は何かしら」

マックス「救世主の本質が何なのか、って意味?
それはまぁ……何かを救ってる、ってことじゃないの。
はは、あんまり頭が良くない感じの答えになっちゃったな」

栞「そうね、確かに何かを救ってるのは確かね。
じゃあ、救っていけないものはあるかしら」

マックス「救世主なのに?」

栞「そう、救世主が救ってはいけないもの。
私が個人的に思う条件としては、
自分自身が救われないこと、かしら。
救世主なのに、自分自身を救おうとするなんて、どう思う?」

彼女の目つきにおされ、答えに詰まってしまう。
彼女は狂信的な何かになろうとしているのだろうか。
そうして黙っていると、彼女の目つきがすっと和らいだ。

栞「そういう意味だと、私は救世主にはなれないわ」

マックス「え、なんでだい」

栞「だって、こうしてマックス君が会いに来てくれた。
それだけで私、本当に救われた気分よ」

そして彼女はにっこりと幸せそうに微笑んだ。

栞「だから私は、救世主になりたいわけじゃないの。
強いていうなら、熱狂を生み出したい、とは思ってるわ」

マックス「熱狂? 君は何をしたいんだ?」

栞「闘いや革命には、熱狂が必要よ。
ただ義務的に何かをしてもらうのではなく、
自分自身の内側から、そうしたいという欲望があるべきだわ。
使命感、と言いかえてもいい」

マックス「何事も自発的に何かをすべきだ、というのは分かる気がする。
そういう内からの抑えられない気持ちがわきあがる方が、
色々なことができるというのは、俺も感じるものがある」

栞「でしょ?
でも正直言って、私やあなただけではまだまだ不足だと感じているの。
いい線いってるとは思うんだけどね」

マックス「だったら人と人が協力しあっていけばいいんじゃないのか。
一人で無理なら、力をあわせればいい。
1足す1は2だろ」

栞「そうね。確かにそれは言えてるわ。
でも今の私が望むのは、掛け算、かな。
マックス君、数学のルートって知ってる?」

マックス「意味は知ってるけど、言葉で説明しようとすると難しいね。
ルート4イコール2、って事なら言えるんだけど」

またウィキペディアで検索してみると、こう書いてあった。

マックス「日本語だと平方根。
平方すると元の値に等しくなる数のことを指す、とあるね」

栞「そう、その通りよ。
たとえばルート13とルート13を掛け合わせると、13になるわね。
そういう意味だと、ルートって半端な数字だと思わない?」

マックス「半端、か。そこまで考えたことはなかったかな」

栞「私達のような性質って、世間一般だとこう呼ばれるそうよ。
サイコパス、ソシオパス、パーソナリティ障害、行為障害。
他にも色々な言葉があるけれど、どれかに当てはめられるみたい」

マックス「そういうものなのかな。
でもまぁ言葉一つだけで俺達を分類するのもどうかとは思うな」

栞「そこは同感ね。
とりあえず説明のために、どこかの枠に当てはめたいだけでしょ」

マックス「そうして分類して、安心したいんじゃないかな」

栞「私はそういう言葉を使われると、ルートのことを思い浮かべる。
私たちは半端な数字。
私とあなたはルートどうし。
でも二人が掛け合わされれば、もっと新たな可能性が増えるんじゃない?」

マックス「そうかな。買いかぶりじゃないかな」

栞「仏に逢うては仏を殺せ」

マックス「え、やけに物騒なことを言うね」

栞「意味がわからなかったら、ウィキペディアで調べていいのよ」

マックス「それならお言葉に甘えて……と思ったけれど、
せっかくだから君の言葉で聞いてみたいな」

栞「あら、そう言ってもらえると嬉しいわ。
でも臨済宗から説明し始めると長くなるから、簡潔に言ってみるわね」

マックス「そうしてもらえると助かります、栞先生」

栞はまんざらでもないようで、得意気な笑顔で語りだした。

栞「言葉上では殺せと言ってるけど、本当に殺すという意味じゃないわ。
既成概念にとらわれないよう、認識のあり方への警鐘ってところかな」

マックス「なるほど、短くて分かりやすかったよ」

栞「つまり、私はこう言いたかったの。
あなたなら、世の中のしがらみにとらわれず成すべきことを成せる、と」

マックス「もしかして今回の事って、俺に対する面接みたいなものなのか。
適性を見たくて、昔のクラスメイトに協力をお願いした、ってこと?」

栞「そう、その通り。そしてあなたは私の期待以上だった」

マックス「そうなんだ。でも気になることがある。聞いてもいいかな?」

栞「え、マックスモード、ここで出しちゃう?」

マックス「君が素直に言ってくれたら、そんなことにはならないさ」

栞「えー、そうなんだ。ちょっと残念」

マックス「率直に聞こう。俺みたいなマックスが、他に何人いるんだ?」

すると栞は両手を顎の下にあてて、小首を少しかしげた。

栞「あれれ、なんでそう思ったの?」

マックス「大した根拠はなくて、ただの直感だよ」

栞「でも、何かきっかけとかがないと、そう思わないでしょ」

マックス「そうだね。昨日由香里が言ってたんだ。
君が洋子さんに言われ、たくさん手紙を書いたって」

栞「十通も手紙を出したら、たくさんって言えるんじゃないかしら」

マックス「二通目からは楽しみにしてた、とも言ってたな。
そこも少しひっかかったんだ。
一通目の手紙をたくさん手紙を書いて、二通目からは楽しみにしてた。
そういう意味にも取れるって」

栞「それだけだと根拠として弱いんじゃない」

マックス「ああ、そうだね。自分でもそう思ってる。
確信があるわけじゃなくて、ひょっとしたら、って思っただけだよ」

栞「ふうん。それだけでそう思ったんだね」

マックス「いや、あと一つだけ根拠はある。
俺の部屋に十一通目の手紙を入れた時、今回は、って言ってたよね」

栞「そうだったっけ?」

マックス「俺の部屋に不法侵入したのかと質問したら、今回はしてない、
って言ってたよね」

栞「ああ、なるほど。何回も十一通目の手紙を出した、と誤解したのね」

マックス「誤解、ということはやっぱり俺の勘違いだったわけか」

栞はあごに置いていた手を離し、両手を上げて少し背伸びをした。
目を閉じて少し深呼吸をし、目を開けながら口を開く。

栞「いえ、そうでもないわ。
不法侵入の件に『今回は』って言っただけ。
一通目の手紙はたくさん出した。あなたの想像通りよ」

マックス「なんでそんなことを?」

栞「洋子さんに言われたからよ。
まぁ教義にいろいろあるみたいで、ね。
神秘主義的なところは殆ど無いのよ。
どっちかというと生活の知恵的な教えが多いの。
でも手紙を沢山送って適合者を探すとか、そういう教えもあるのよね。
まぁ詳しい内容は、興味を持ってもらえた時にでも話してあげるわ」

マックス「そうやって、色々な人間と文通を並行していたわけだ」

栞「そこも誤解なんだけど、二通目まで続いたのはあなただけよ」

マックス「え、そうなんだ」

栞「なぜか返事が来なくて続かなかったのよね。
まぁ当時はすでにメールとかもあったから、
文通という方法自体が、長く続かない原因だったのかもしれないけど。
だからマックスくんから返事が来て、手紙が続いて嬉しかったわ」

マックス「そうだったのか」

そこで話が途切れた。
集中力が途切れたからなのか、不意に店内の雑音など耳に入ってきた。
あらためて辺りを見回す。
明るいショッピングモール。
楽しそうに歩く人々。
今まで話していたことからは、完全に切り離されたような別世界。

栞「結構長話をしたつもりだけど、これでもう質問はないかしら」

マックス「そうだな、最後に一つだけ」

栞「何かしら」

マックス「なんで十五年ぶりに、俺を呼びよせたんだ。
十一通目の手紙を早めに出した方が、効果的だったんじゃないのか」

栞「でもあなたはちゃんと来てくれたじゃない」

マックス「結果的にはそうだが、必ずそうなったとも限らないだろ」

栞「でもあの時の返事どおり、ちゃんと来てくれた」

栞はカバンから手紙を取り出した。
俺が彼女の十通目の手紙に書いた返信だ。

手紙、ありがとう。
何か色々あったみたいで心配したけど、
目標ができて、それに向かって進むんだね。
具体的に何をするのかは分からないけれど、
君の進む道を応援しているよ。
いつか君が俺を呼んでくれる日が来たら
必ず君のもとにかけつける。
その日を、ずっと待っている。
マックス

栞「この手紙、わたしの宝物なの。
いろいろな事があったけど、ずっと持ってた。
わたしの大事な、心の支え」

マックス「今となって見返すと、なんか照れくさいな」

二人でくすりと笑う。

栞「十五年かかった理由だけど、
十五年待つと最初から決めてたんじゃないの。
わたしがここまで来るのに、けっこう時間がかかっちゃっただけ。
わたしの準備が整ったから、あなたに連絡をとったの。
いつのまにか十五年も過ぎてただけよ」

マックス「十五年の意味は分かったけど、まだ答えをもらえてないな」

栞「何かしら」

マックス「俺を呼び寄せた理由は?」

栞「えー、私がここまで言ったのに、まだそんなことを言うの?」

マックス「君の口から、ちゃんと聞きたいんだ」

もう、と栞は口をとがらせ、また両手を顎の下において肘をついた。
そして少し目をそらし逡巡し、背筋を伸ばして俺の目を見つめなおす。

栞「わたしはマックス君、あなたとずっと居たいと思ってる。
もっとあなたのことを知りたいの。
だからここまで来てくれて、本当に嬉しかった。
あなたはわたしのこと、どう思ってる?」

そして片手を差し出してきた。

栞「文通から何年もたって、
こうして面と向かって会うのは初めてなのに、
こういうこと言うのもどうなのかな。
頭の中ではそう思うんだけど、想いが止まらないの」

人の顔って、こんなに真っ赤になるもんなんだな。

栞「今すぐ返事が欲しいとは言わないわ。
十五年も待ったんだから、あと数日くらい待ってもいいよ。
あなたにとっても重大な決断になると思うし、
それに……その……」

まだ言い続けようとする栞の言葉を遮るように、俺は彼女の手を握った。
いろいろ思うところはある。
でも、理屈じゃない。
俺も、想いが止まらないんだ。

マックス「俺も君とずっと一緒に居たい」

すると栞は放心したような表情になり、そして静かに涙を流していた。

栞「あれ、わたし、泣いてるんだ……」

ハンカチを取り出しながら、彼女が言う。

栞「知ってた? わたし、泣いたの初めてなんだよ。
マックス君、わたしの初めてを奪っちゃったね」

マックス「そうか、それは悪いことをしたな」

栞「もっと他の初めても奪ってくれたら、許してあげる」

くすりと彼女が笑うと、いつの間にか初老の温和そうな男が立っていた。

男「おめでとうございます」

マックス「あなたはどなたですか?」

栞「こちらが文野教授よ。文野洋子さんの旦那さん」

文野教授「はじめまして、マックス君。
文野と申します。今後ともよろしくお願いします」

すっと片手を差し出されたので、おのずと握手をしながら言った。

マックス「こちらの方こそ、よろしくお願いします」

それが合図になったように、辺りの客全員が拍手をし始めた。

「おめでとうございます!」
「おめでとう!」
「おしあわせに!」
「今後が楽しみです!」

喫茶店の中だけでなく、外の人たちも拍手をしてる。

マックス「えっ、これって一体どういうことなんだ?」

栞「言ったでしょ、私には協力してくれる人がいるって」

マックス「もしかして、ショッピングモールの中の全員が……」

栞「そう、みんな私の大事な仲間達よ」

まさかと思って見渡すと、クラスメイト七人もいつの間にか居る。
それだけじゃない。
智子ちゃん。
春花さん。
ケーキ屋の優香ちゃん。
三平君。
源吉さん。
小雲のじいさん。
みんなにこやかな顔で拍手している。

マックス「それにしても、人数が多くないか」

栞「あれ、言ってなかったかしら。
わたし、世間で言うところの、教祖になったの」

俺が驚いてると、栞は両手で俺の手をつかみ、耳元でそっと囁いた。

栞「ずっと、一緒だよ」

エピローグへ続く)
そしてその夜。

この国を今後大きく変える存在が、命の種子を得た。

まだそのことを知る人間はいない。

永遠の愛を誓った、男女二人以外には。




√Letter rule √13 root is closed.
明日はちょっとひと仕事あるから、気晴らしに先輩たちと飲みに行った。そこまではいいんだけれど、飲み過ぎたせいか調子に乗り過ぎた……かもしれない。飲みでいい気分になりすぎたせいか、その後に行ったゲーセンで、格ゲーでいつもみたいに接待プレイせずに、思いっきり先輩たちに連勝し続けてしまった。

「同時押しはしっかりしないとダメですよ〜! 確反を逃しちゃダサいっすよ〜!」

先輩たちは大人なので、特に怒鳴ったりとかはしなかったけど、不機嫌そうにしていたのは間違いない。酔っぱらってる後輩に負け続けているという表向きの事実だけでなく、今まで手加減されてたという真実も分かってしまったわけで、不機嫌にならないわけがないだろう。

しかしその時の自分は酔っていたので、そんな単純な他人の心も想像しえなかった。むしろ明日の憂鬱な仕事のことを考えると、酔って今だけでも良い気分でいたかったのかもしれない。手元は意外としっかり動くけれど、足元はだんだんと心もとなくなってきたなぁ、と思っていたら先輩たちが家まで送ってくれた。

家に着くころには少し冷静になっていて、「あんな失礼な事をしたのに、先輩たちは大人だなぁ」と思いつつも、その気持ちを口に出すのも謝るのも気恥ずかしくて、送り届けてもらったお礼だけ言って、家に帰りつくなりシャワーもあびずにそのままベッドに倒れこんだ。その頃には明日の仕事のことを思い出していたけれど、なるべく考えないようにして、枕に顔をうずめているうちに、いつしか意識が薄れていった。

翌朝はとても晴れていたが、心は晴れやかとはいかなかった。しかし誰かがやらないといけない仕事だから、と自分に言い聞かせて職場へ向かい、先輩たちと手分けして淡々と作業をとりおこなっていく。お経を聞き、目隠しをし、絞首台の上に連れて行き、両手を縛り、ロープを首にかける。ここまで終えると、先輩たちと3つのボタンの前に並んだ。久しぶりだったが、死刑囚も暴れずおとなしいし、つつがなく作業は進んでいる。うん、順調だ。少しだけ目を閉じて深呼吸をし、合図をまつ。

そして時がきた。

迷わずに目の前のボタンを押す。

しかし、目の前の死刑囚に変化はない。揚げ板がそのままで、死刑囚は吊られていない。何か様子がおかしいと気配を察したのか、さきほどまで落ち着いていた死刑囚が少し慌てている様子が見える。

慌ててるのは自分も同じだった。おかしい。三人ともボタンを押しているのだから、誰か一人のボタンが作動している筈なのに。何かの間違いで、三つのボタンどれもがダミーになってたり、壊れているせいで、揚げ板が開かないのだろうか。

どうすればいいのか先輩たちに相談しよう。そう思って横を向くと、先輩たちは二人ともじっと無表情のまま前を向いたままだった。なぜ絞首台が作動してないのに、こんなに落ち着いてるんだろうか。心に何かが泡立つものを感じつつ、つい先輩たちの指先を見てしまった。

二人ともボタンを押して、いない。

合図をしてる方向から見ると分からないが、横から見てる自分にはわかる。微妙にボタンから指がずれている。二人ともボタンを押しているようで、実は押していない。そもそも三つ同時押ししないと開かないというわけではなく、同時押しするのは、あくまで罪悪感を誤魔化すだけのシステムでしかない。つまり、一つだけボタンを押したとしても、"アタリ"だったら、今頃は作動していた筈だ。

今回たまたま自分のボタンが"ハズレ"だったけれど、そうでなかったら、いったい……

いや、考えすぎだ。だって昨夜はあんな失礼なことをしたのに、先輩たちはちゃんと家まで送ってくれたじゃないか。

でも、あの無表情、少しずれた指先。あれは気のせいなのか。

気のせいだ。

気のせいで、あってほしい。

そう思った途端、昨夜酔っぱらってた時など比較にならないような、強烈な眩暈がやってきた。世界が崩れ落ちる。そんな感覚と共に倒れてしまいそうになったが、先輩たちは素早く体を支えてくれた。

ほら、やっぱり気のせいじゃないか。悪意があってボタンを押してないのなら、倒れるのをかばってくれるわけがないじゃないか。お礼を言おうと先輩の顔を向くと、耳元でそっと囁かれた。

「すまんな、同時押しが苦手で」
「これが問題のCDか?」

「ええ、4枚のうちの1枚ですよ」

「どんな音がするんだ?」

「これはドラムのパートだから、普通にドラム叩いてるだけ……らしいです」

「聴いてみたいんだが」

「警部、何言ってるんですかっ! これだけ被害者が出たってのにっ?」

「でもなぁ、4枚一度に再生しないと効果ないんだろ? じゃあこの1枚だけ聴いても……」

「何言ってるんですかっ! 万が一があったらどうするんですか?!」

「バンドメンバー4人がそれぞれ録音したパートを、一度に再生させた曲を聴いたら、自殺した人間がここ一ヶ月で5人も出てる。そんなこたぁニュースには流せないよなぁ」

「自分こんなオカルトじみた事を信じてるわけじゃないですけど、危険な事に首を突っ込まなくてもいいでしょ?!」

「まぁ聴きゃあ、何か手がかりが掴めるって……おおっといかん、年ばかり無駄に食ってしまって、手元がおぼつかなくてなぁ……あらまぁ、やっちまったなぁ」

「あー……割れちゃいましたね……」

「始末書もんかぁ?」

「始末書で済めばまだいいですけど、呪われたりしたらどうするんですかっ?!」

「んなこたねえって」

それから数ヵ月後。

「警部、あれから体の調子は悪くなってないですよね?」

「ああ、いつも通りだな」

「呪いにかかって自殺しやしないかと、気が気でなかったってのに、警部ときたら……」

「そんな心配してる暇があったら、事件の一つでも解決しようや。ところでお前の方こそ大丈夫か? 指の絆創膏、料理でも始めたんか?」

「いやー、最近音楽にハマっててですね」

「包丁でできたCDでも買ってきてるんか?」

「ああ、聴くほうじゃなくて、演奏する方ですよ。なんか頭の中に浮かぶフレーズがあって、なんか演奏したくなってきてたまんないんですよねー、最近」

まさか演奏してるのはドラムじゃないだろうな。

老警部はそう軽口を叩こうとしたが、こらえた。

質問しなければ大丈夫、という保証もないが、質問すれば大丈夫ではない、という保証もない。

ただ、質問しさえしなければ、これ以上は何も確定しないだろうから。
『ROOM 13』:“登場人物は男と女の2人”、“ホテルの13号室を舞台にした密室劇”、“必ずどちらかが死ぬ”、の3つをルールに13人のフランス若手映像作家が知恵の限りを尽くしたサスペンスドラマ集。


女は何度も13号室のドアまで行っては鍵をかけなおし、きちんと鍵がかかっているか確かめるためドアを引いた。かなり乱暴な扱いをされても、ドアは頑丈で開く気配もない。これなら誰も入ってこれない筈だ。思いっきりドアを蹴ってみたが、ハイヒールのかかとが折れただけだった。舌打ちしてハイヒールを両方とも脱ぎ捨てた。

女は血走った目をぎょろつかせながら部屋の中に戻り、静かに辺りを見回している。黙ってはいるが口はしっかりと閉まっておらず、醜く歪んでいる。しばらく肩で息をしつつ沈黙を保っていたが、こらえきれなくなったのか突然叫んだ。

「どこよ、どこに隠れたのよっ!」

そして耳を澄ますが、時折ホテルの外で車が走る音が微かに聞こえるだけで、辺りは静まりかえったままだった。しかし女は安心できない。そのまま黙って部屋の中でじっとし、耳に神経を集中させていた。

カタ、カタカタ……

目を見開いて金属音に目を向けると、女の右手の包丁が震えていてベッドに細かくぶつかっていただけだった。女は苦笑しつつも、このままだと包丁を落としそうだ、と思って一計を案じた。部屋の中を見渡すと、ちょうどガムテープが目にとまった。包丁をしっかり握りなおし、ガムテープを手の上から何重にも巻きつける。手の震えはまだおさまらないが、包丁を落とす心配は無くなった。

用が無くなったガムテープを置こうとして、ふと女は思いついた。左手でもっているバッグもガムテープで巻けば、より安全ではないか、と。大事なものが盗られる心配がなくなるだろう、と。自分のアイデアに満足すると、女はガムテープでバッグのふたを厳重に閉じ、左手でバッグを握る。しかしこれでも心配だ。そう思うとガムテープを口でくわえ、器用にバッグを握る左手に巻きつけ、余った部分は右手の包丁で切り落とした。

「絶対に……絶対に渡さないんだから……」

女はバッグを胸元に抱え込み、包丁と一体になった右手で包みこむ。

「なにさ、一度は親子ともども捨てておきながら、相続権があったと分かった瞬間に返せだなんて!」

辺りをみまわすと、視界の隅に人の姿があった。

「誰なのよ……そんな必死な顔をしてるからって、絶対に渡さないんだからっ!」

鏡に女自身が写っていたが、それが自分自身なのだとは認識できず、即座に包丁を叩きつけるようにぶつけていた。大きな音を立てて、鏡が割れた。

ホテルの床に散らばるのは、無数の鏡の破片。その中に写る無数の女の姿。そして無数の狂気。

鏡が粉々になって、もはや鏡としての機能が無くなったのを見ると、女は安心したのかその場に崩れ落ちた。

「はっ、このくらいですぐに居なくなるなんて、そんなにこの子が大事じゃないんでしょ?」

女は愛おしそうに左手のバッグを抱き寄せ、頬ずりを始めた。

「絶対にこの子は渡さないんだから……私だけの、可愛い息子なんだから……」

母親は頬ずりを続けた。バッグの中に隠していた息子が、窒息してしまっている事など全く気付かないまま、いつまでも、いつまでも。
子供のころにやった一番残酷なことは何か。

子供のころはわんぱくだった知人が、神妙な顔つきで話し始めた。

「小さい時でありがちなのは、蛙のお尻に爆竹を突っ込むってヤツだろうが、俺の場合は少しだけ違ったんだ」

「爆竹じゃなくて、他のものを使ったとか?」

「いや、違うのは爆竹じゃなくて、蛙の方なんだ」

「まさか、犯罪っぽい代物じゃないよな? 子供ってことはアブノーマルなプレイとかするわけないし……」

余談だが、知人は知る人ぞ知るSM愛好家だ。

子供の頃だけではなく、大人になってもわんぱくらしい。

「いやいや、俺だって子供の頃はそんな事しないって。ヒントは夏の生き物」

「蛙だって夏の生き物じゃないか。もう少しヒントはないか?」

「そうだなぁ、これ言ったら正解すれすれなんだが、うるさい生き物かな」

「蛙だってうるさい生き物じゃないか。もう少しヒントはないか?」

「わざと言ってないか? 第三ヒントは、空を飛ぶ生き物」

「ああ、蝉か」

「そう、蝉のお尻に爆竹を突っ込んだんだ」

「それだけじゃ蛙と変わらないだろう」

「蛙と違って、蝉は空を飛ぶんだ……」

知人は過去の風景を思い出したのか、陰鬱な表情になって話し始めた。

「蝉がな、爆竹をつけたまま元気良く空を飛ぶんだ。俺がそれを見上げてたら、爆竹が当然爆発したよ。太陽を逆光にして、はじけ飛んだ蝉の残骸が顔にばらばら落ちてきた時、俺はこの世にはやってはいけない事が確かにあるんだ、と思い知らされたんだ」

「こういっちゃなんだが、情操教育にいいかもしれない」

「確かに効果はあると思う。まぁPTAに反対されるだろうけどな」

将来の犯罪を抑止するために、蝉の花火を打ち上げる。そういうのもありかもしれない。じゃあ、世界平和のために60億以上の蝉と花火、それだけあれば理想郷は訪れるだろうか。

いや、無理だ。蝉ではなく人間の花火が上がるような国だって世界には沢山あるのだ。所詮は平和ボケした国の人間の戯言だ。

それに、蝉の花火で犯罪抑止になればいいが、逆に眠っていた衝動が覚醒しないとも限らないだろう。現に今、目の前に度がすぎてしまっているSM愛好家が居るではないか。子供のころ大人しくなったのではなく、違う方向に嗜虐性を見出し、巧みに隠蔽するようになった人間が、目の前に居るではないか。

「ほら、約束の品だ」

私は知人にブランデーを渡した。琥珀色の液体の底に、よく見ると人の小指が沈んでいる小瓶を。知人にとっては、爆発でなく切断するのならやってもいい事なんだろう。そういう道徳心も分からなくはない。
徹夜明けだから目が疲れているに違いない。最初にそれを見た時はそう思った。思い込もうとした。

満員電車の中、その男の周りだけ色彩がなくなっていた。色彩がなくなっているというよりも、何か黒いものがまとわりついているような感じだ。気のせいかと思ったが、なんだろうあの黒いのは、と思うと目が離せない。

早く家に帰って寝た方がいいな、と思って指で目を押さえ、再び目を開いたが黒いものは消えていない。なんだろうか、あれは。男の表情も健康的なものではなかった。世の中に絶望しているような、世の中に怒りを感じているような、そんな目つきと黒くまとわりつくものが合わさって、より一層凄みを感じる。

目を合わせづらくなって顔を背けていると、次の駅に止まった。私の職場までまだまだあるな、と思っていると視界の端を黒いものがよぎった。思わずそちらを目で追うと、あの男が駅に降りていくのが見えた。

何となくほっとして、何となく男が座っていた席を見ると、黒いものが席に残っていた。ぎょっとしてそちらを見ると、黒いものは席ではなく床からわいているようだ。床を見ると、何の変哲も無い紙袋が置いてある。さっきの男が忘れていったのだろうか。届けてあげようかと思ったが、すでに電車は出発してしまった。

これから会社だし、誰か暇な人が駅員に知らせてくれるだろう。そう思いつつ出勤した。それが良かったのかも知れない。会社で私を出迎えた受付の女の子がこう言ったのだ。

「部長が乗ってる路線で、爆発物が見つかったらしいです!」

まさかと思ってネットで調べてみると、私の乗っていた車両の可能性が高かった。まさか、いやまさか。

そしてしばらくたつと、今まで気が付いていなかったものに気づくようになってしまっていた。世の中あらゆるところに、あの黒いものは存在している。黒さにも段階があるようで、あの電車の時のような黒さにはいまだにお目にかかっていない。しかし街を歩いているとまれに黒いものに出会ってしまう。

それを抱えている人間の表情は、いつも暗く、憤っているように見える。何となく思った。あれは人の負の感情ではなかろうか、と。にこやかな笑顔の人間の周りには決して黒いものはまとわりついていなかったからだ。

最初は違和感があったが、いつしか私は黒いものに慣れてきていた。自ら危険な場所や人物に近寄らなければ、黒いものが見えることも少ないし、見えたところで直接実害は無いからだ。逆に黒いものが見えたら用心すればいい、くらいに思えてくるようになっていた。

そんなある日、会社の同僚達とゴルフに行くことになった。接待ゴルフというわけではないので気疲れはしない。たまの休日だ、リフレッシュしないと。

「ナーイスショット!」

雲ひとつ無い青空の下、皆が笑顔でスポーツを楽しんでいる。その笑顔に、あの黒いものがまとわりついている。笑顔なのに、黒いものがまとわりついている。目は笑っていて表情も明るいのに、どれもこれも黒い。あの箱の男くらい、ドス黒い。

そうか、皆そろって、他人の失敗を望んでいるんだろうな。思えば、他人が失敗するのを祈るしかない競技だしな。人知れずため息を付いた後、私は巧妙にショットを失敗する。

「ドンマーイ!」

明るい声と共に、皆の周りの黒さが少し薄らいだ。
たまの休日だから、と思い妻と二人で遠くの公園に出かけた。市内でも有数の大きな池がある公園で、多くの人々がジョギングをしたり、犬を連れて散歩をしたり、ほがらかな休日を過ごしている。そんな日常的な雰囲気の中、違和感を抱かせる風景があった。

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なぜ鴉が多く集まっていると、それだけで不気味に感じるのだろうか。そういった感覚的な疑問もさることながら、写真の右のやせ細った木にしか鴉がとまっておらず、左側に一羽だけ白い鳥がいるのも印象的だ。

何か禍々しいものでも生まれかねない。そんな印象を胸に秘めたまま背後を振り返り、そこに明るい日常が広がっているのを見て思った。

この世には明確な境界なぞ何処にも無い。あるとするならば我々の脳内で、あたかも境界があるように感じる、この感覚だけだ。
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